国際学会での先生方との思い出
「国際学会」ってタイトルに入っているから、読んでいただいている方に、なんかこう……すごい敷居の高い話なんじゃと思われたら嫌だなと……それは誤解です……国際学会、大きいのも小ちゃいのも色々ありますし……あと、こういうのは正直に書いておこう。
私のTOEIC最高点は595点です。(※勉強した結果で)(※お察し下さい)
そんな感じで、毎回、あっぷあっぷでこなしていた国際学会。そんな中で、外国の先生方も大変優しかった、というお話を書いておきたいな、と思った。
とある国際学会でのお話。Manly-and-Parr法の、Parr先生のお話。
学会発表の時には、自分の発表内容を短くまとめた「要旨」(アブストラクト)を提出する。私の当時の発表の概要は、「絶滅危惧種の個体数の推定法」にまつわるものだった。
ある生息地にどのぐらいの数の生き物がいるのか、を推定するのは、実は結構難しい。というのも、まさか全部捕まえて数を数えるなんてできないからだ。
特に絶滅危惧種なんて、捕獲する際に傷ついたり、個体の行動に影響を与えてしまったり、なんてしてしまったら最悪だ。そのため、対象の生物種を直接捕獲せずに推定する方法を考える必要がある。
その時の私の研究の発表内容としては、いくつかの方法を複合(合体)して使うことで、対象種への影響を最小限で済ませることができるよーというものだった。その中の、個体数の推定のひとつとして「Manly and Parr法」を挙げていた。
その研究発表の当日、当然のようにめちゃくちゃ緊張していた。国際学会の発表は2度目、しかも英語は全然できない、ときている。(※どうしてそんなことに)(※いろいろありまして……)
研究室の方針で、学会発表時はスーツ着用だった。緊張のあまり、朝食の後もスーツ姿でホテル内を落ち着きなく歩きまわっていた、と思う(※完全に不審者)。そして、学会発表用の名札もつけたままだった(今考えても……恥ずかしい……)。
ホテルの廊下の大きな鏡の前で、何か服装で変なところはないか、とチェックした後のことだったように思う。
通りかかった白髪の老紳士が「今日の(学会)発表かね」と声をかけて下さった。私にも聞き取りやすい、はっきりした英語だった。
つたない英語を駆使しながら「そうなんです……とても緊張してしまって……」とお返事したところ……あれ?この方、私と同じ名札をつけている……?
あっ……あっ……Parr先生だ……私がアブストラクトに書いていた、「Manly-and-Parr」法を開発された、まさにご本人だ……
いやもう、びっくりした。本当にびっくりした。しかし、Parr先生は、全くおかまいなしに「大丈夫だよ!」と気さくに、大変フランクに話しかけて下さる……。
「いいかい、口頭発表にはいくつかのコツがある。まず簡単なようで難しいこと。マイクはまっすぐ、胸の位置で持つ。このぐらいだよ!(※実際にやって見せてくださった)せっかく良い発表でも、聞こえないと意味がないからね。それから、原稿を見ないこと!みんな、君の話が聞きたいんだ。原稿の文章を聞きたいわけじゃない。自分の言葉で、みんなに伝えるんだよ!大丈夫、君はちゃんとできるよ!」
明るく、そして爽やかに伝えて下さると、Parr先生は矍鑠と……というより、むしろさっそうと去っていかれた。私は自分の幸運に呆然としつつ、でも「よし!発表頑張ろう!」という前向きな気持ちをもちつつ、学会の会場に向かった。
発表は、思ったよりはよくできた。ただ、結果には繋がらず、研究発表の「賞」は、一緒に来ている同期がとった。自分としてはよく頑張ったと思える出来だったので、そこはあまり気にはしていなかった。だいたい、同期は大変良くできたので、自分を比較するのもおこがましい……。
日本へ帰る荷造りをしている時に、なぜかまた再びParr先生のお目にかかった。ロビー等ではなく、ホテルの廊下の出会いがしらだったように思う。
Parr先生は何故か私のことを覚えていてくれて「君か!発表とっても良かったよ!でも賞が取れなくてそこは残念だった!」Parr先生は、何故か発表者本人の私なんかより、よっぽど残念そうにしてくれていた(優しい先生だなーとしみじみ思った……)Parr先生は続けて、
「君の発表は大変良かった。君の発表は二番目に良かった。ただ、君の友人の方が、ちょっとだけ良かった。本当にちょっとの差だった」とさらに慰めて下さった。
いや多分贔屓目に見ても、同期と私の差は「ちょっと」ではなかったろうなあ……と自分でも思うので、そこは本当に慰めて下さったのだろうなあ、と思う。むしろ、そんな、少し口をきいただけの私のことを、本当に気にかけて下さったんだなあ、と、そこが嬉しかったし、今でも大変有難く思い返す。
そして、やはり今思い返すと、私みたいな若手(※当時)ぺーぺーの発表にも、有名な先生が来てくださることはけっこうあった気がする。
ポスター発表でシミュレーション関係をやったら、その本のご著者のAkcakaya先生が、ビール片手にいきなりいらしたこともあったな……(※外国の学会では、発表のコアタイムとぶつけて、立食パーティ的な催しがある)
基本的に外国にいらっしゃる先生は、英語ネイティブではない私達みたいな学生にも、かえってとても分かりやすい英語を使ってくださる印象がある。そして、質疑応答の時とかも、こちらがきちんと表現できていない部分まで汲んで下さるので、本当にありがたい。
今、できれば再び、大学院に戻って、自分のやってきたことを一つの形にしたいと考えている。もし、戻れたならば、やはりまた国際学会での発表はやってみたいなーと思っている。今はオンラインの学会も多く、それはそれで自分の新たな挑戦になるので、そちらも国内外を問わず是非トライしてみたい、と考えている。
自分の研究について、また、自分の言葉で語れる日が来るといいな、と思っている。