ひたすら生態学(とその近隣)の本を推していくブログ

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群れはなぜ同じ方向を目指すのか? 群知能と意思決定の科学/レン・フィッシャー(著)・松浦俊輔(訳)

 

群れはなぜ同じ方向を目指すのか?

群れはなぜ同じ方向を目指すのか?

  
 

【専門書か一般書か】

多分、かなり一般書寄り

【文章表現】

とても読みやすい。外国の本らしい小粋なユーモアがちょいちょい挟まる。 

【どんな人向けか】

集合知」「群知能」の概略的な話を知りたい人。多分ほんとに知らない人向け(私のような)。ちょっとでも、生物好き/統計学好き/数学好きだったりすると、なおいいかもしれない。あと、「SNSを使いこなしてバズったりウハウハしたい人向け」……と書きたいところだけれど、多分、そういう方々が想像するような内容ではないんじゃないかな~~~。そこら辺については、かなりまっとうで常識的なことしか書いていない。ただ、最後に、複雑系・群知能を実生活で使いこなして役立てていくためには」みたいなTIips集はあるので、そこだけ読んでみても損はしないのでは。

 【全体の構成】

1・2・3章は生物種(ヒトを含む)に、共通的・普遍的に見られる「群知能」「自己組織化」「最短経路探索方法」についての章。4章はかなりヒトの行動に比重をおいて、群集の中で移動しようとする際の力学についての章。5章以降からはヒトの集団の話になる。ヒトの集団での意思決定についてが5章、集団での合意形成の話が6章、7章はwebなどのネットワークの広がり方の特徴の話(「ネットワークでベストセラーを生み出すためには?」のような話題もあるよ!)。8章以降は「自分」の話になる。8章、複雑・わからない状況のときに意思決定するには?9章、複雑な物事から「法則性」を抽出する際の考え方。10章は、これまでの話で、複雑系群知能などを利用して自分の生活に役立てていくためには?というまとめとサービスの章。 

【読んだあと、どう変わった?】

群衆の中の自分とは、とか、Webなんかでのネットワークの中の自分とは、などの、メタ認知的な視点・発想が出るようになる気がしますね!あと「じゃあ生物にとっての『知性』って何なんだろう」とますます興味が出てきた…全然専門ではないのだけれど… 

【関連書籍】

私はこれがこの分野ファーストコンタクトなので、この本からの派生はむしろ他の人に教えてもらいたい気がする…。ただ、巻末の著者イチオシの参考文献が大変充実しているので、こっちを攻めていくとすごく面白そう!あとちょっとズレてしまうかもしれないのですが…お客様の中にー!お客様の中に生物の個体群の動態(ある生息地内での生物の個体数の増減とか)にご興味のある方はいらっしゃいませんかー!そういった方には桐谷圭治先生の本をお勧めしておりますー!

 【感想】

私が、この本を「すごい!素敵!」と思った点は、大別すると「自分のような初めての人間でも用語・知識が分かりやすく解説されている点」「『知性あるヒト・未熟な知性の他の生物』という構造ではなく、『群知能』を普遍的なルールとして扱っているところ」「2009年に書かれたにもかかわらずの先見性」の3点に集約されるかな、と思う。

 ・自分のような初めての人間でも用語・知識が分かりやすく解説されている点

これはね…ほんとにこの本すばらしい… いくつか面白かったところを要約すると(そう私でも要約できるのです…)

「全くの未知の事象に対して、みんなめいめいに当てずっぽうを言わせて、平均すると、なぜか真の値に近くなる(→みんな知らないことなのに、みんなで勝手にわいわい言っているだけで、なぜか真理に行き着いてしまう)」 

「ただし、↑上記の発動条件は『相談しないこと』。相談すると正答率ががくーんと落ちる。これは『集団思考によるもの」(←みんなで相談したほうが正答率が下がる、って面白くない!?!私は面白いと思った!) 

「『集団思考』は、別にカルト宗教的な特別な集団で起こるわけではなく、わりと普通にどこにでもある。例えば『チャレンジャー号事故』集団思考が引き起こしたといえる」 

「webなどのネットワークで情報拡散をするためには、拡散をする人に何らかのインセンティブ(見返り)があること。それは具体的なお金などだけではなく、抽象的な『この商品は大変いいものだから、みんなに広めたい!』とかの気持ちでもいい」 

「ある物事をぜんせん知らないほうが、正解の選択肢を引けることがある(単純なヒューリスティックの強さ)」 

「何らかのデータを取得した際、上一桁の数値の分布は常に偏っている(※逆に、偏っていなければデータ捏造の疑いがある)(ベンフォードの法則)」 

などなど…他にも「クォーラム反応」「コンドルセ陪審定理」「アローの不可能性定理」「ラムゼーの定理」なんかがとても分かりやすく解説されている。 

・「知性あるヒト・未熟な知性の他の生物」という構造ではなく、「群知能」を普遍的なルールとして扱っているところ 

そう…そうなんですよ…この本の1.2.3章がね…私ほんとに好きで…扱っているのがアリ・ハチ・イナゴなんだけど…… 

アリ……?イナゴ……?と思われた方がいるかもしれない。人間の知恵が、アリごときと比肩するとでも……? 

いやいやいや! 

あのですね。私見ですが。 

例えばアリは(アリだけじゃないけど)、ずーーーっと昔から、はるか昔から、地球にいたわけじゃないですか。ヒトよりも、ずっとずっと昔から。その間、数多の天変地異をものともせず、延々続いてきているわけですよ。 

一方でヒトは、そのままだと生き延びられないから、自分が生きるためにわざわざ周囲の環境を大きく作り変えないと、生きていけないわけですよ。今この瞬間、マッパで荒野で放り出されて、生きていけますか?少なくとも私は無理。ヒト、そういう意味では弱い。とっても弱い。そのままじゃどうにもならなかったから、こんなでっかい農業だの都市だのエネルギーだのが必要だったわけだから。 

ある意味、生存のための戦略は、アリの方がヒトよりすでに究まっている。生きるための最適化はおそらく、アリの方がより進んでいる。 

よし。アリに倣おう。 

……いや、そんなノリかは、ほんとにそんなノリかは確信がないのですが、この本では特に序盤、ひょいひょいヒトの群知能と他の生き物の群知能的な戦略の話を行ったり来たりするのです。 

そして読んだ人は震えてほしい!アリやハチやイナゴに「キサマ等のいる場所は既に我々が二千年前に通過した場所だッッッ」って言われちゃう時の気持ち!(いやしかもタイムスケール的には、もっともっと遥か昔にご到達なさっているんだろうけど……) 

そんなわけで、群知能には、種の壁を越える(←私この言い回しあんまり好きじゃないけど)「普遍的な」「共通の」ルールがある、と提示してくれているところが、私が個人的に特にとてもツボったところです。 

・2009年に書かれたにもかかわらずの先見性 これねー…7章とかがほんとすごくて…ほんと今のネットワーク(特にSNS)の世界とかの話じゃーんとか思う… 

ぼんやりした個人の印象でまことに恐縮ですが…インターネットは2000年ジャストごろから流行りだしたかなーfacebooktwitterあたりは2010年ぐらいから日本に本格上陸かなー(mixiのこともたまには思い出してあげて下さい…)という感じで、これ書かれた時はまだそこまでそんなにみんなSNSって感じでもなかったような気がするのよなー…もうすでにネットワークそのものに対して、こんなに知見があったんだなー…ということにびっくりした… 

そしてまた7章さあ…タイムリーに「伝染病とネットワーク」の話がね…出ているんですよ…ちなみに大規模な感染を防ぐためには「ハブに近寄らない」「コミュニティー間を繋ぐ長距離のリンクになりそうな人(自分自身を含めて)を監視する」が必要と既にこの時点で明示されていて…明示されているのに…なんでかなあ…ほんと、なんでかなあ… 

まあここまで書いてきてアレですが、私の駄文じゃこのこの本の良さ全く伝えられてる気がしないね!読んで!ほんといい本だから、少しでも引っかかった人、ほんと読んで!

そしてさらにもし気が向いたら、読んだあと「お前ここ違うよ!読めてねぇよ!」という激しいツッコミ、「勉強が全然足りてないよこの本読みなよ」という愛ある参考文献の提示がいただけると、私はとても嬉しいです!