ひたすら生態学(とその近隣)の本を推していくブログ

五文字では足りなかった……!情念で押していく所存です。みんな!ここに沼があるよ!

生態学キーノート/A. Mackenzie・A. S. Ball・S. R. Virdee(著)・岩城 英夫(訳)

生態学」ってどんな学問なのだろう?


「生態」とあるのだから、生き物の生きている様を調べる学問なのでは?」という回答もあるかもしれない。じゃあ、生態学をやっている人は、みんながみんな、生き物の生活史(その生き物がどのように生活しているのか)を調べている人ばかりなのか。


答えはおそらく否だ。例えば草原がどれだけの二酸化炭素を貯蓄しているのか調べているのは「植物生態学」の分野だ。そういう場合、バケツをひっくり返したような容器に野外の植物を閉じ込めたりして、草原の一年間の二酸化炭素の収支を測っていたりする。他にも、水中の環境DNAを調べている人がいたり、熱帯雨林の上から下までいったいどんな生物がいるのかリストアップしたりする人がいたり……じゃあ一体「生態学」って何なんだ。


本書「生態学キーノート」は、最初にその問いに答えるところから始まっている。生態学とは、生物とその環境の相互作用に関する学問だ、と定義づける。個人的に、この定義はとてもよくできているな、と思う。「環境」との「相互作用」なのだから、生き物は環境から影響を受けるし、環境もまた生き物から影響を受ける。そして、環境には物理的環境も、生物学的環境も含まれる。ヒトは肉を食べ魚を食べ野菜を食べることで「(生物学的)環境」から恩恵を受けている。また、呼吸により二酸化炭素を吐き出すことで、地球上の二酸化炭素の総量を変える(人間が「物理的環境に影響を与える」)。そういった、生き物と、それを取り巻く世界との「関わり方」を明らかにしていく学問なんだよ、というものが、この本における「生態学」の捉え方になっている。


生態学」という学問があるのは知っている。ただ、どこから手をつけていいのか分からない、という方。また、生態学をより深く知っていくための取っ掛かりがほしい、という方。もしそういう方がおられるのなら、私は迷わずこの本をおすすめしたい。いや〜いい本……いい本なんですよ……。


まず、構造的に見やすい。
ざっくりとした説明で、本に対して大変恐縮なのだけれど「概要」→「基礎知識」→「大きな話」→「小さめ(個別の)話」→「大きな話(地球全体規模)」→「近年起きている諸問題・応用の話」という流れになっているので、生態学の全体像が把握しやすい。


具体的には、最初に、冒頭に述べたような「生態学とはどういう学問か」の説明がある。そこから、生態学の10規則の説明に移る。生態学の10規則は以下のように示される。


生態学は科学である
生態学は進化の観点からのみ理解できる
・種の利益のためには何事も起こらない
・遺伝子と環境の両方が重要
・複雑なものを理解するためにはモデルが必要
・「物語」は危険
・説明にも階層性がある
・生物には多くの制約がある
・偶然も重要である
生態学の境界は生態学者の心の中にある


(個人的に「生態学は進化の観点からのみ理解できる」がすごい抉ってくる……進化よわよわの私には大変耳が痛い……)。


さらに、地球上の気候を大まかに紹介し、個体群の話から、個体群の中の種内競争の話へと移る。そして種間関係(群集)の話になり、特徴的な景観の話に移る。後ろの方には、生物濃縮や外来種問題などの、近年の環境の諸問題について説明がある。これらの流れに従って読んでいくうちに、「生態学」という学問の全体像がイメージされる構造になっている。


しかし、「最初から最後まで読むのは面倒だ」という方もいるかもしれない。それに対しても、大丈夫だ、と太鼓判を押させていただきたい。どの章も基本的に一章で完結しているので、どこから読んでもオーケーな形になっている。ぱらぱらとめくって、気になった章だけ読んでいくのでも、十分お役に立てると思う。


この本のレイアウトは、とにかく見やすい。
章の最初に「まとめ」を持ってくることで、その章全体の内容が理解できるようになっている。
また、重要な語句を最初にピックアップし、それに対して説明を付け加える形になっている。
なにより、本自体が大きめで、余白もたっぷりとってある。「生態学キー『ノート』」の名前は伊達じゃない。自分が調べたことや、疑問・考えたことなんかもたくさん書き込める。
たくさん書き込んで、是非、あなただけの一冊、あなただけの「生態学キーノート」に仕上げてほしい。


そして、大変いい本、大変いい本と連呼し、ここまで書いておいて、最後に大変……大変残念なお知らせを……この「生態学キーノート」、現在絶版となっています……
是非是非の復活を!と願わずにはいられない。その祈りを込めて、ここで強く強く推させていただきたい。